いつだって、俺は。
ここぞってときに尻込みしちゃうところがあって、チャンスをものにできない。

要領が悪くて、周りからはいつも『要領の良さは全部呂佳に持って行かれたな』って囃されてた。
兄ちゃんみたいになりたいって思ったこと無いわけじゃない。だけど。
いつも兄ちゃんの方がすごくて、兄ちゃんばかりが褒められて、なんだかすごく嫌だった。
俺の存在が認められてないみたいな気がして、悲しかった。

小さい頃、俺のうちとのうちで一緒にバーベキューをした時もそんな話題になったことがあって。
大人たちに囃されて俺がいつもみたいにふてくされて見せたら、がおんなじような顔をしていて驚いたことがあった。

庭の隅でいじけていた俺の隣に腰を下ろしたの呟きは今でもはっきり覚えている。



 『要領が悪いところが、りおのいいところなのに』



俺は予想だにしない反応にただポカンとしているばかりで、何も言えなかった。



 『あたしはなんでもスイスイやってのけちゃう呂佳ちゃんよりも、
  なんでも一生懸命頑張ってるりおのほうがすごいと思うけどなぁ』



みんなおかしいよね、と不満そうに言うの言葉に、俺は。
ちゃんと俺を、俺自身を見てくれてるんだなって、そう思ったら、
なんだか安心したような、嬉しいような、変な感じがお腹のほうからざわざわ上がってきて、
こみ上げてきた感情をどうにも我慢できずに、不覚にも好きな子の前で泣いてしまった。

そんな俺を見て満足そうに笑ったを、子供ながらになんて愛しいんだろうと思った。
そして、ああ、きっと俺は一生のことが好きなんだろうなって確信したんだ。


はもう覚えてないかもしれない。
それくらい昔のちっぽけな思い出だけど、俺にとっては大切な大切な思い出。
一生かけて守ろうと心に決めた笑顔を、俺はこの先もきっと忘れない。

あれから何年も経ち、今もなお変わらぬ笑顔で笑うを俺は守りきれるだろうか。
そう思うと切なくて。胸が締め付けられるように苦しくなる。
年を重ねるたびに俺との年の差が重くのしかかってきて、どうにもうまく接することが出来ない。
変わらぬ関係、縮まらない距離。
俺とはいっこ違いの幼馴染でお隣さん。先輩マネジと後輩捕手。
それ以上でも、以下でもない。

愛しいと感じているのはきっと俺だけで、にとって俺は手のかかる弟くらいの存在なんだと思う。


告白するチャンスが無かったわけじゃない。
いつだってよかったんだ。
毎日部活が終わると一緒に帰っていたし、互いの家も自由に行き来していた。

そう今だって。部活が終わってと二人、夕焼けの帰り道。
どうせなら今言ってしまおうか、なんて。

(言えるわけも無いくせに)

やっぱり、いざってなると尻込みしてしまう自分がいて。
たった一言「好きだ」って言っちゃえばいいだけなのに、出来ない。
伝えたい思いをいつものどの奥に飲み込んでしまうのは、要領が悪いからってだけなんだろうか。

(そんなこと、ないってことくらい)(俺は当の昔に気づいてる)

(でも、気づかないふりをしていたんだ)


に触れたい。めいっぱい抱き締めてみたい。おんなじことをにされたい。
そうしても許される唯一の存在になりたい。

想いはどんどん強くなる一方で、
いつしか俺は自分に向けられる笑顔と同じ笑顔をみんなに向けるに気づいてしまった。
それは絶望的な、しかし紛れもない事実で、俺の決意を揺るがせるには十分な破壊力を持っていた。

片思いは辛い。苦しい。告白して楽になりたい。
でも、想いが叶わなかったら?

それは、片思いよりもずっとずっと辛く、苦しい。

(ホントは、との距離を縮めるのが怖くて)
(追いつけないんだって思って無意識に逃げてたのかもしれない)


今のままでも、が自分に笑いかけてくれるなら。
変に気まずくなるよりはずっといい、そう思うことにしていたのかもしれない。


そうしてきっと今日も、何事も無く二人だけの時間が終わりを告げるんだ。



「・・ね、りお」

俺がぼんやり考え込んでいると、少し前を歩いていたはずのがいつの間にか隣を歩いていた。

「なに」

名前を呼ばれるだけで胸の真ん中がじんわりあったかくなってきて、なんだか恥ずかしい。
だからいつも、ついついぶっきらぼうになってしまう。


「手、つなごっか。昔みたいに」



急に何を言い出すんだろうと思ったけど、別に驚かなかった。
は時々こうやって小さい子みたいに俺に甘えてくるときがある。

そして言葉の最後には必ず『昔みたいに』とつけて。

この行動がにとってどんな意味を為すのかはわからない。
でも、俺だけの特権だから。

いつも感じるいっこ下ってゆう重圧が少し、軽くなる瞬間。


「・・いいよ」

はい、と手を差し出すとが嬉しそうに笑うから、つないだ手の熱さに気づかれるんじゃないかってひやひやする。
でもなんでもない振りをして、また歩き出す。

いつもは眩しくて好きになれない夕焼けも、俺の頬の赤みを隠してくれるから、ほんの少し好きになれる。

ちらとの方を覗き見ると、何かを凝視する大きな瞳に気づいた。
視線の先には、公園を散歩する他校のカップル。

「どーしたの?」

訊ねてみると、いたずらっこみたいに笑いながら


「あたしとりおもさ、こーやってたらカップルに見えるかな?」
「ぶっ!!」

とんでもないことを言うもんだから、俺は吹き出してしまった。


「なに変なこと考えてんのぉ!」


「だって、ちょっと前まではあんなにちまこかったじゃない、りお」

ドギマギしながら抗議の言葉を掛けると、口を尖らせていじけたような表情を見せる


「ちまっこくて悪かったな」


と憎まれ口を叩きながら、あー可愛いなーなんて思ったりして。


「なのに今じゃもうこんなに見上げなきゃ顔が見えないくらいになっちゃって」

さみしそうな、悲しそうな。
そんななんともいえない表情をしては俯き、つないだ手に力が込められる。

が何を考えてるのかよくわからなくて、俺は口を噤んでしまって。


「・・・男の子ってずるい」

「勝手にどんどんおっきくなっていっちゃうんだもん」



「置いてかれるみたいで、時々、さみしい」


回らない頭を一生懸命稼動させても、が何を伝えたいのかよくわかんなくて、どうしたらいいのか全くわからなかった。

(置いてかれてるのは、俺のほうなのに)

なんだか弱弱しく見えるを抱きしめてやりたいと思ったけど、やっぱり出来なかった。

(クソ・・・いくじなし)




「・・・俺は俺だよ」

なんてよくわからない返事をして、場を紛らわそうとするとようやくが顔をあげた。
そのの目がなんだか俺からの言葉を待っているように思えて、何か取り繕うための言葉を探したけどうまい言葉が見つからなくて。


を・・置いてったりなんか、しないよ。・・・俺は、絶対」

(だから、そんな顔しないで)

必死に言葉を紡ぎながら、俺は自分が何を言ってるのか正直よくわかんなかった。
ただ、に笑っていて欲しかったから、安心させたかったから。
でも、偽りの無い言葉を、俺は一生懸命捜した。




「・・うん」

そう一言呟いて俺から視線を外し、の手が俺のそれから離されていく。
すっと薄れていく体温にさみしさを覚えて、俺は眉をひそめる。

それどころかの表情は一向に晴れないくて、なんだか俺が逆に泣きそうになった。

が辛そうにしてても、俺にはなにもできないの?)

要領が悪い自分をこういうときに酷く痛感する。
俺が辛いときはいつだってが助けてくれたのに、肝心なときに俺はやっぱり何にも出来ない。

お互い沈黙を保ったまま、ひたすら歩いていた。

いつの間にか俺たちは家に着いていて、じゃあねと小さく呟いては自宅に消えていってしまった。
その光景をぼーっと眺めるばかりの俺は、帰りの遅い俺を心配して外に出てきた母さんに声を掛けられるまで、ずっと、そうしていた。






どうして君がそんな顔をするのかわからない僕は、群れからはぐれた一匹の羊のように狼狽えるばかりで。







(僕の手に残った君のぬくもりが、この歯痒い想いを揺れ動かしていく)









年の差の恋に10のお題
02:歯痒い想い (リライト
07.02 柑月 あかり